東京大学サイエンスコミュニケーションサークルCAST、略して「東大CAST」です。
前回の「広がった歯ブラシの毛先が熱湯で元に戻る?」の検証に引き続き、今回も私たちに身近な「ある噂」の真偽を実験によって科学的に検証して行きたいと思います。
一人暮らしだと料理をするのも大変だけど、食器を片付ける手間も結構バカにならない。そんなことも、自炊が面倒になってしまう原因の一つかもしれませんね。自炊を継続するためにも、水道代を抑えるためにも、食器洗いは手早く済ませたいものです。
世間にはいろいろな「食器洗いのコツ」がありますが、中でも有名なものに「米のとぎ汁で汚れが落ちる」というものがあります。テレビで見た、おばあちゃんから聞いたことがある、という人もいるのではないでしょうか。普通流して捨てるだけの米のとぎ汁が洗剤の代わりになるなら、素敵な話ですね。
でも、本当にそんな都合のよい話があるのでしょうか。米を盛った茶碗を米のとぎ汁で洗うなんてちょっと信じられない話です。もし米のとぎ汁で汚れが落ちるとしても、食器を洗うために作られた洗剤には敵わないのではないでしょうか。
ヒミツは”γグロブリン”
まずは、米のとぎ汁で汚れが落ちる、という噂の根拠はいったいどういうものなのか、調べてみました。
米のとぎ汁で汚れが落ちるのは、『とぎ汁に含まれるγグロブリンという成分が界面活性剤としてはたらくため』であるそうです。γグロブリンとは米に含まれるたんぱく質の一種で、特に米の表面に多く含まれています。また界面活性剤とは簡単に言えば油と水をくっつける成分のことで、多くの洗剤にも利用されています。界面活性剤で油汚れと水をくっつけてやることで、油汚れが水に流せるようになる、というわけです。
ここまで見る限り、なかなか信憑性のある話のようですね。
さっそく実践!
理屈も分かったところで、そのチカラを実際に試してみましょう。
米のとぎ汁に含まれる成分が界面活性剤としてはたらくのなら、油汚れを浮かせることができるはずです。というわけで、皿にゴマ油を塗って、米のとぎ汁に浸けてみることにしました。
この皿を米のとぎ汁に浸します。比較のため、同じくゴマ油を塗った皿を水、そして洗剤を溶いた水にも浸しておきます。
そっと、そーっと、沈めて…。
浸け始めた時の様子は、どの皿もそんなに変わらないように見えます。
20分後、皿を取り出しました。その様子が以下の写真です。
よく見ると米のとぎ汁、洗剤を溶いた水には、うっすら油が浮かんでいるのが分かります。
皿の方は一枚ずつアップで見てみましょう。
●水

水に浸していた皿には、ゴマ油がしっかりと残っています。やはり、水に浸けておいただけでは油汚れは落ちないようですね。
●米のとぎ汁
米のとぎ汁に浸した皿にもゴマ油が残っていますが、水に浸した皿と比較するとゴマ油が少なくなっています。
●洗剤
洗剤に浸した皿では、ゴマ油があまり残っていません。水、米のとぎ汁に浸した皿とは明らかな差があります。
この実験の結果から、米のとぎ汁には油汚れを落とす力があるものの、洗剤に比べるとその力は弱いと考えられます。
まとめ:『米のとぎ汁で汚れが落ちる』は本当だった!けど・・・
実験によって、米のとぎ汁で油汚れを浮かせることができることがわかりました。
米のとぎ汁が食器洗いに使えるという噂はガセではなかったようですね。同時に、米のとぎ汁よりも洗剤の方が油汚れをよく落とすということも分かりました。界面活性剤を数十%含む洗剤と比べると、米のとぎ汁は分が悪いのでしょう。
γグロブリンは精米の際に取り除かれるぬかの部分にも多く含まれているので、普段スーパーで買うような精米済みの米にはあまり残っていないのかもしれません。
もちろん、だからといって米のとぎ汁に使い道がないわけではありません。皿を米のとぎ汁に漬けておいて、そのあとで洗剤を使って洗うようにすれば、汚れが落ちやすくなって洗剤、水道代の節約につながるのではないでしょうか。米に含まれるγグロブリンの量は品種によっても異なるそうなので、ぜひ一度皆さまのキッチンでも試してみてください!
ちなみにビラにはARで実験動画が隠されているとか…?


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