健康診断後に、二次健康診断が指示されても「忙しい」「病院に行く必要を感じない」「病院に行ったら本当に病気になってしまいそう」などと言って、受診しようとしない社員が毎年出てくる…。
こういった事態を放置することは、会社の責任になるのでしょうか。そこで今回は、悩める人事労務担当者に、二次健康診断の再検査未受診・拒否にどう対応するべきかを解説します。
目次
定期健康診断結果の有所見率は増えている
定期健康診断の「有所見」とは、「何らかの異常の所見」があることを指します。検査の結果によって、医師から要経過観察・要治療・要再検査などの指示が出されます。
「有所見」は必ずしも病気が確定している状態ではありませんが、場合によっては健康管理のための措置を取らなければなりません。
従業員の高年齢化にも伴い、何らかの医師の所見がある健康診断結果の割合は増加の一途をたどっています。2000年に44.52%だった全国の有所見率は、2019年には56.64%と10ポイント以上の増加となりました。
有所見率の高い検査項目
定期健康診断の結果を集計し、検査項目別に全国平均を出したデータから、令和元年の有所見率で高いポイントを占める項目は以下の通りです。
・血圧:17.58%
・肝機能:13.9%
・血糖:10.16%
血中脂質はここ数年なだらかに有所見率が下がっているものの、血圧・肝機能は上昇傾向にあります。大きな病気になる前に、早期の対応が大切です。
出典:厚生労働省石川労働局「定期健康診断結果から見た有所見率の推移」
「健康診断を受ける義務」は法律で定められているが、再検査受診についての規定はない
「労働安全衛生法第66条」によって、健康診断の受診は従業員側の「受診する義務」が規定されていますが、健康診断受診結果による「再検査」については法律的には強制力がありません。
実際に定期健康診断では、検査項目の一部を拒否したことに対する懲戒処分が有効とされたケースや、健康診断を受診しない社員とその上司に対してあらかじめペナルティーを定めているケースもありますが、二次診断については法的な根拠がない状態です。
しかし、従業員に二次健康診断を受診しやすい環境をつくり、その結果によって配慮を行う「安全配慮義務」が企業には課せられています。「本人が二次健康診断を受けないのなら、その結果として健康を害しても本人の意思だから放置する」という判断は適当ではありません。医師の診断に従って、就業制限や休暇・休業の措置をとる必要があります。
「二次健康診断の受診を勧奨するとともに、診断区分に関する医師の判定を受けた当該二次健康診断の結果を事業者に提出するよう働きかけることが適当である」という厚生労働省の指針に基づき、対応しましょう。
引用:厚生労働省 「公示の健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」
健康診断の二次検査を受けない従業員の「デメリット」
健康診断の結果によって、再検査を受診させ、治療にあたるよう配慮することは、企業側の「安全配慮義務」として当然のことです。
それと同時に、自分の健康に配慮し、業務にまっとうすることは「労働者の健康保持義務」として、同時に従業員側にも求められます。万が一、健康診断で判明した病気が原因となり過労死や労災が発生した場合、もしも再検査や治療を受けていれば被災しなかった可能性があったという理由で、損害賠償額が減額された判例もあります。
二次健康を受診しないことが従業員本人にとって、大きなデメリットになることを知ってもらい、再検査を促しましょう。
出典:大阪高判平成15年5月29日労働判例No.858 93頁
再検査の受診義務は就業規則で明示しよう
再検査を促すためにも、就業規則で健康診断の再検査についても明記しておくのも効果があります。常時10人以上の従業員を使用する使用者は、労働基準法第89条の規定により、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督 署長に届け出なければならないとされています。
厚生労働省が作成・公開している「モデル就業規則」内にも健康診断についての記載があります。
2 前項の健康診断のほか、法令で定められた有害業務に従事する労働者に対しては、特別の項目についての健康診断を行う。
3 第1項及び前項の健康診断の結果必要と認めるときは、一定期間の就業禁止、労働時間の短縮、配置転換その他健康保持上必要な措置を命ずることがある。
出典:厚生労働省 モデル就業規則(令和2年11月)より「健康診断」
労災保険二次健康診断等給付を利用して脳・心臓疾患の発症を予防しよう
血圧・血中脂質・血糖・腹囲またはBMI測定すべてに「異常の所見」があると診断された場合、脳血管・心臓の状態を把握するための二次健康診断と特定保健指導の費用を最大32,332円(2020年8月1日以降受診の場合)の給付を受けることができます。
この給付は二次健康診断を実施する健診給付医療機関から直接請求されるため、事業所・従業員ともに一時的なものも含め金銭的負担はありません。
重大な病気を引き起こすことを回避するためにも、労災保険二次健康診断の活用をおすすめしましょう。
まとめ
健康診断の再検査は、重大な病気の予兆を発見するために重要なものです。受診しやすい環境を整えるためにどのような配慮が必要か、あらためて従業員に直接、情報収集してみることも大切です。
また、再受診後の流れや、治療を必要とする場合に利用できる福利厚生などの情報提供は、従業員に安心感を与え、会社に対する従業員の満足度を高める効果があります。普段から情報提供に努め、健康についての意識を高めることが、二次診断の受診拒否を減らす近道ではないでしょうか。